北欧デンマークのオルタナティブ・ロックバンド Mew(ミュー)。
世界メジャーデビュー2作目(通算4作目)のアルバム『And The Glass Handed Kites(2005年)』は、私にとって10年に1度クラスの衝撃を受けた作品だった。
まずは『And The Glass Handed Kites』の中から3曲、聴いてみよう。
Mew – Why Are You Looking Grave?
(とかく他人の表情というものは心をざわざわとさせるものだ)
Mew – Special
(甘い蜜にも毒にもなる、言の葉とは恐ろしく強大な力を持つものだよね)
Mew – The Zookeeper’s Boy
(動物園の動物たちを見ていると様々な感情に襲われるけれど、結局人間も同じだと気付かされるんだ)
明と暗、静と動。不意に訪れるターニングポイントとクライマックス。
’90年代オルタナティヴ・ロックの衝動がよみがえる。
聖歌隊の少年(少女)のような声で歌うのは、その進化形だ。
第一印象は大好きだった初期の The Smashing Pumpkins をアップデートしたような世界観に思えた。また Keane のような美しさがあるがピアノ曲ではなく、あくまでもギター・ベース・ドラムスに重きを置いたロックバンドサウンドであるという点が最大のポイント。削ぎ落とされた重く切れのあるビート、ビリビリくるギターリフと、相反するヒーリング系音楽要素(主にヴォーカルによる)が、見事に溶け込んでいる。そして変拍子(混合拍子)による複雑な曲構成とジャンルを超えた実験精神はプログレッシヴロック風で大変聴きごたえがある。アルバムではほぼすべての曲が途切れることなくつながっており、1つのロック・オペラ作品のようでもある。
荘厳なメロディーと何層も重なるコーラス・ハーモニーは教会音楽や聖歌のごとく美しく鳴り響く。しかし・・・
歌詞は暗い。
詩的で深い暗さ。私の最も好きな北欧ノルウェーのアーティスト、エドヴァルド・ムンクの詩を思い出した(「叫び」で有名な画家であるが、多くの絵画作品に本人の詩や言葉が付随している)。
人間の愛と死・孤独や不安を突き詰めたアート。夢と現実の境界線にある危うい美しさ、奇妙な魅力、魔力。万人ウケするポピュラー音楽ではない。売れる事よりも表現を追求する芸術家タイプのアーティストだろう。
これほどのバンドにまた出会えるとは思っていなかったので、うれしい。この独自のスタイルを保ったまま、末長く活動を続けてくれますように。
■ 追記
ニューアルバム『+ -(プラスマイナス)』が今春リリース決定! メジャーレーベル契約を終えインディーズ作品となるそうですが、環境の変化はプラスとなるかマイナスとなるか?
プロデューサーには『And The Glass Handed Kites』を手掛けた Michael Beinhorn が10年ぶりに再起用されているので期待できる。プロデューサーは最も重要だ。
先行シングル『Satellites』も公開された。相変わらず個性的な曲構成。これまでにはない清々しいサウンド。新しいリズム。歌詞は・・・うーん、ラブソングなのかな、変態的な(笑)。
これは期待出来るぞ。発売が待ち遠しいー♪
Mew – Satellites
(最後の最後に「私はいつも家にいます」って、気になる歌詞だよ?)
■ 所有CD
1. Mew『Frengers』3rdアルバム。世界デビュー作。
2. Mew『And The Glass Handed Kites』今回紹介した 4thアルバム。傑作。アルバム1枚を通して1つの作品として完成している。ただし楽曲もつながっているため(クロスフェードで重なっている等)シャッフル再生には不向きだ。アルバムを通して聴こう!
3. Mew『No More Stories Are Told Today I’m Sorry They Washed Away No More Stories The World Is Grey I’m Tired Let’s Wash Away』タイトルが長い(笑)。実験性(アート性)が増している。
4. Mew『Eggs Are Funny』ベスト版。